大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)2417号 判決

原告 野田甚一

右代理人 中村幸逸

池内判也

被告 大和証券株式会社

右代表者 渡辺安太郎

右代理人 改田四郎

中務平吉

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の株券を引渡せ。若しその執行が不能な場合には百五十一万四千九百八十円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金五十万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

理由

被告会社の営業目的が原告主張通りであり、訴外日方章造が昭和二十五年八月頃被告会社に支配人代理として勤務していたことは当事者間に争がなく、証人日方章造の証言(第二回)と原告本人の訊問の結果とによつて真正に成立したものと認める甲第一、二号証、同第四号証の一、二に証人日方章造(第一、二回)、新武楠太郎、増田正三、安東三郎の各証言と原告本人の訊問の結果並びに前示事実を綜合すると、原告は昭和二十三年頃から被告会社の営業、顧客の世話、顧客から依頼されて有価証券の売買、受渡を職務とする顧客係日方章造扱で、被告会社等を通じて株式の投機的売買をするようになり、買入れた株券は昭和二十四年二月頃一時原告自ら保管したこともあつたが、時宜に適した取引の便宜上等後記事情によりその後間もなく原告の任意による返還請求あるまでは右訴外人の手元に再び保管して貰うことになり時々右訴外人につき原告は右株式の売買を記帳した自己の帳簿(甲第四号証の一、二)と右保管株券とを照合して違算なきことを期しながら取引を継続し最後に昭和二十五年春頃右照合をなし、双方一致の上その保管を継続、現在右依託保管にかかる株券は別紙記載の通りになつていることが認められ、右認定を左右し得るに足る証拠は他にない。そして右株券の保管はもとより特定株券に関するから、原告の任意の請求に応じこれを返還する場合は原則として右保管受託にかかる特定株券をもつてすることを要すること多言を要しないところであるが、前示のような株券、特にその名義の如何を問わない株券の投機的売買に附随してなされた保管契約の対象たる株券は、その銘柄と数量に重点こそあれ、その個性に依存度が稀薄であることは契約当事者の意思よりするは勿論、株券自体の性質からするも当然首肯され得るところであるから、右保管契約の解釈上、原告はもとより、被告においても該特定株券に代えて同銘柄、同数量の他の株券をもつて返還の目的となし得るものと認めるのが相当である。証人日方章造(第一、二回)、増田正三、正木米八郎の各証言と原告本人の訊問の結果(但し後記措信しない部分を除く)を綜合すると、被告会社は前示主なる営業目的に附随して顧客の株券を常時預つておること、右株券の受託は被告会社の保管係なる業務部門において、預り証を発行し、これを行うのが正式であつて、殊に昭和二十五年二、三月頃からは大阪証券取引所及び大阪証券業協会から右正規の方法による受託方法が勧奨されるに至つたのであるが、保管株券が多量になつてくると正式の保管方法は一々預り証を発行するので面倒となり、且つ顧客は会社の帳簿に記載されるので取引財産が表面に出るため税金の関係もあり、また時宜に臨んで迅速に株券を処分するのに不便でもあるので、被告会社の顧客係は親密な顧客についてはその希望に応じて右正規の保管方法をとらず、簡易方法として顧客係自らがこれを預り、被告会社の金庫に保管しており原告についても右同様日方章造は本件株券を右簡易な方法で預り保管していたこと、右簡易方法による株券の受託は顧客係の私の目的のためと云うよりは寧ろ自己の職務を完遂するための手段としてなされており、日方章造と原告間の前示保管契約もこれと同目的であること、及び被告会社は右訴外人が受託した株券を被告会社備付の金庫に保管することを許容していたことが認められ、これ等諸般の事情を考慮するときは右日方章造が原告との間になした前示株券の受託行為は同訴外人の担当する顧客係としての職務行為として為したものであり、そして被告会社は右訴外人がかかる受託行為を同訴外人の職務内容として許容されていたものと認めるのが相当であるから、右株券の受託は原・被告間の契約として理解すべきものである。証人日方章造は第一回の証言において右受託行為は同訴外人個人としてなしたものであると断片的に述べていないでもないが、これは同証人の他の証言部分と相関的に理解するときは、それほどの強い意味をもつているものとは思われず、また乙第二号証、証人服部与市、新武楠太郎、大平信一郎の記載又は証言中右認定に反する部分は右事実を認定した他の証拠に照して直ちに措信できず、原告本人の訊問の結果中右簡易方法による保管は原告の税金関係に基くものではないとの点も措信し難く、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして原告が被告会社に対し昭和二十七年五月三十一日頃、同年六月十五日を限つて右保管株券の返還方を催告したことは当事者間に争がないから、被告会社は本件受託株券を原告に返還すべき義務を有するところ、前顧日方章造の証言(第一、二回)によると右受託株券は訴外新武楠太郎及び日方章造が勝手に他に売却してしまつたこと、従つて右返還義務は履行不能となつていることが認められるので、被告会社は右保管にかかる株券に代えてこれと同銘柄、同数量の他の株券を原告に引渡さねばならない義務がある。そして株式の給付につき執行不能の場合において債権者は履行に代る賠償を請求し得るものであつて、本件の如く右損害賠償の予備的請求を予めなしたるときは最後の口頭弁論当時における本来の給付の価額により本来の給付を命ずると同時に執行不能な場合の右価額相当の損害の賠償をなすべきことを命じ得るものと解するところ、本件最後の口頭弁論期日たる昭和三十年三月十二日当時の本件株券の価格は合計百五十一万四千九百八十円であることは真正に成立したことにつき当事者間に争がない甲第十一、十二号証によつて明らかであるから、原告はその余の主張を判断するまでもなく原告の本訴第一次的請求は正当としてこれを認容するものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を夫々適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 相賀照之 裁判官 中島孝信 小畑実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例